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zoom RSS 笹本稜平著「還るべき場所」(壮絶なる登攀記録)

<<   作成日時 : 2012/02/25 13:42   >>

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笹本稜平氏の作品を初めて読みました。今まで山岳小説と言えば新田次郎ぐらいしか読んでいなかったのが恥ずかしい。最近読んだ他の作家さんはじめ多くの方が山を舞台にした作品を書いているのを知って、これから少しずつ読破していきたいと思います。感想が前後しますが、この作品も先日読んだ夢枕獏氏と同じくらい素晴らしく、小説についての専門的な評論は書けませんが、素人ながら、その構成力、時制の配置、人物の配列、専門的な山岳知識、など十分に練り込まれていてたように思います。

舞台となるのはパキスタンとインド、中国との国境にまたがるカラコルム山脈。その中でも世界第2位の「K2」という山が舞台です。参考までに文庫本の表紙とネット上にあった写真を掲載致しますし、この小説のあらすじを宇田川拓也氏の解説文からまずは転用致します。

「世界第二位の最高峰、K2。その未踏の東壁を攻略中の事故で、主人八代翔平は、最愛のパートナー栗本聖美を、登山家として最も悲しい形で喪ってしまう。翔平が聖美と結び合ったロープを手繰り寄せてみると、その末端は鋭利な刃物で切断されていた・・・それはつまり、雪崩に遭い、岩壁から剥がされて宙吊になった聖美が、翔平を救うために自らの手でロープを切ったことを物語っていた。誰よりも山で死ぬことを厭い、生きようとする意思を絶やさなかったはずの聖美の、”まさか”の選択は、翔平を打ちのめし、山に背を向けさせるには十分すぎるほどであった。それからの四年間・・・。かつての山仲間で、今はトレッキングツアーを主催する会社を設立した板倉亮太から、聖美の弔い合戦として、あのK2の東壁を再び攻めることを持ちかけられる。ブロードピークへの公募登山で客を登らせた直後に、二人で速攻を仕掛けるという大胆なプランに、翔平は意を決して応じる。それは、もう聖美はいないという事実を受け入れ、山を遠ざける人生から抜け出すための、新たな旅立ちであった・・・。」

どこから書けばいいのだろうか。登場人物、ドラマ、山、いっぱいありすぎる。逆に全てを書くことで一番影響を受けたことが薄まるような気さえしてしまいます。そこでまずは、個人的に最も共感できた人物として、還暦を過ぎた企業家神津邦正を挙げたいと思います。それは、彼の行動や判断、そして彼が発するコメントが、登山に関しても、そして人生訓としても重く感じられたからです。思わず途中からは彼の言葉にアンダーラインを引きながら、神津氏の企業家として、また60年を生き抜いてきた中から生まれた言葉を噛みしめました。その中でもはっとさせられる言葉がありましたので掲載したいと思います。

「人間は夢を食って生きる動物だ。夢を見る力を失った人生は地獄だ。夢はこの世界の不条理を忘れさせてくれる。夢はこの世界が生きるに値するものだと信じさせてくれる。」

このような表現が至る所にちりばめられていましたが、普段のルーティーンな生活の中で、改めて「夢」について考えたりしているだろうかと、ふと本から目を離し外の景色を時々見たりしました。太宰治は言う、「大人とは挫折した青年の姿である」と。そうしてみると、太宰の言葉で留まって生きるのか、それとも神津のように夢を持って生きるべきなのか、そんな命題を山岳小説全体を俯瞰しながら反芻し、自問自答できたように思います。

話は変わりますが、山岳小説としてのスリリングな部分は闊達に描かれていました。特に、K2のベースキャンプで繰り広げられる各登山パーティー間の牽制や協力、窃盗行為など、人が集まり、厳しい条件下にさらされると人間の本性が露わになり、それが時として命取りとなることも描かれていた。登山小説の中でよく登場する、いわゆる邪魔者、今回の場合はアルゼンチンから来た三人組で、母国でちょっとほらを吹いたら大きく取り上げられてしまい、援助者も出て、後にも引けなくなり未熟なままベースキャンプに付き、酸素ボンベの盗みやら、他のパーティーが作ったルートへの割り込みを絶えずするあたりは、小説の中に奥行きとスピード感を与えていたように感じました。

そして、日本とニュージーランドのトレッキングツアー会社がついにアタックを決めたところからは、もう目が離せなかった。次々に生まれる困難とアクシデント、人知を越えた自然の脅威、死が間近に迫る中での人間行動や
最終的に判断せざるを得ない諦念など、いつまでたってもドラマが終わらない。早くこの困難から読者を解放してほしい、そして、出来れば「よかった!」という思いを抱いて読了したい、ただただそんな思いで読み進めました。
聖美がザイルが切れた後、どうしたのか、どこに行ったのか、残留するものはあったのか、これらの問いに対し、結末では思いがけない聖美の足跡があったのが描かれています。

最後に、翔平と相棒の亮太は再びK2に挑んだ時、絶好の気象条件と完璧な高度順応のおかげで、あっさりと、いとも簡単に完登することが出来たとある。また、「頂上からの景色は美しく静謐だった。何か不思議な力によって招かれたとでも言いたいような和らいだ気配がこの場所にはあった」と書かれていました。掲載した写真もご覧になりながら読んで頂けると幸いです。


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